唐見の松

西行法師の古歌で知られる上富田町岡の八上王子の森に、以前唐見の松という名木がそびえていました。
徳川末期に枯れてしまったが、言い伝えによると、木の周りは大人五人が手をつないでやっと取り巻くことができたというので、相当な大木であったようです。
ある年の秋、里の者が話をしているところへ、旅の僧がやって来て、八上神社の森のなかの大きな松に気づき「あんな木は国内でも3本とないだろう」と言いました。それを聞いた里の若者は「あの松の梢まで登ったら、どこまで見えるか」と旅僧に尋ねました。 旅僧は「平安の都でも唐の都でも見える」と答えて、いろいろと唐の話をしたあと、立ち去りました。幾日か経って、若者は松に登った。下で里の者が見ていると、ずっと上の高い所から「おーい。よく見えるよ。唐の都も手に取るようだ」という声が聞こえて来ました。しばらくして地上に降りて来た若者は、まるで別人のようになって、見てきたことを話したといいます。このこと以降、この松の大木のことを唐見の松と呼ぶようになりました。

<熊野文庫より引用>