上富田町の生馬橋を渡って、市鹿野へ向かう県道を4キロほど行くと、上鳥渕の部落にさしかかります。ここから小橋を渡り右側に分かれる山道は昔の宇津木越えで、かつては日置川奥と田辺を結ぶ間道でした。
この道の東側に見える、標高330メートルの山が「上の山」で、山頂には立岩とよぶ巨岩がそびえ、麓の(信仰される岩のこと)に「上の山神社」が祀られています。
上の山神社は最近まで小祠もなく、折り重なった一群の巨岩が信仰の対象でした。山に入るときには、必ずここに詣り、神の許しをうけないと、祟りがあるといわれます。
この山の主は大蛇で、人々の入山をきらい、勝手に山に入ると、はじめに長さ10センチほどの小蛇が現われ、それに気付かずに登って行くと50センチ・1メートル・2メートルと蛇がだんだん大きくなって道をふさぎます。山頂付近では、胴回り30センチをこえる大蛇になります。これを見た者は、精神異常や不治の奇病にとり付かれ、なかには生命を失う者が出たので、昔は里人からたいへんおそれられていたといわれます。
また、女性は、月のものがあるときには入山をひかえ、家人にそれがある場合は、別火で朝食や弁当をこしらえてこの山に入ったといいます。
この付近を流れる谷川のみずが、急に涸れて干し上がり、しばらくすると、もと通りに流れはじめることがあり、昔から、これは山の主の大蛇が、谷川に水を飲みに来たために起こるのであると伝えられています。
<熊野文庫より引用>